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見知った料理こそ、レシピ本があるとすっごく楽しい【連載・炭田のレシピ本研究室/第9回】

年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本2冊を紹介する連載。今回は夏らしく「素麺」と「うどん」がテーマです。

1年の半分くらい夏服着てません?

「こうも暑いと、食欲なくなりますよねぇ」と、打ち合わせ相手が話を振ってくれた。が、こちとら年中無休で食い意地が張っているので、そんなこたぁない。でもそこは大人なので、ウフフと微笑みながら曖昧に相槌を打った。ウフフ。

しかしそう言われてみると、この暑さにより台所に立つ気力は確実に減っている。パスタを茹でながら「地獄の釜で罪人を茹でる鬼って、むしろ鬼の方が罰を受けてない?」「バテないように、各鬼で持ち場を回してたり?」と、思考がとっ散らかる。暑い。夏に鍋の前に立ち続けるのは、なかなかどうしてハードな仕事だ。

そんな時は、素麺の出番。なんたって茹で時間が1分半と、パスタの1/5で済む。とはいえ味が代り映えしないので、すぐに飽きてしまうのも素麺。かつて、夫の実家から届いた木箱に入った揖保乃糸(黒帯の高級なやつ)を使い切るのに3年を要したのは、ここだけの話だ。だが今年の我が家はハイスピードで素麺を消費していて、はじめて揖保乃糸をスーパーでお金を出して買った(赤帯だった)。そのきっかけとなった日坂春奈さんの『今日のそうめん 365日そうめんを食べるわたしのレシピノート』をまずは紹介したい。

amazonより

素麺は夏の白いごはん

『今日のそうめん』は、日めくりカレンダーのように1日1レシピが紹介されていて、冷やし中華やカッペリーニなど想像に難くないアレンジから、グラタンやお焼き、パフェなどこれまでの“素麺観”を打ち砕くレシピまで、多彩なバリエーションが紹介されている。

が、私が驚いたのは日坂さんの提案する茹で方。なんとフライパンを使う。素麺のパッケージ裏に書いてあるイラストといえば「大きな鍋」が定番で、それを使って「たっぷりの湯をぐらぐら沸かす」のが正しい茹で方だと思っていた。だがそれを遵守すると、素麺の茹で時間が短くていくら夏向きの食材だとしても、なんだかんだ暑い……。それがフライパンでOKと来たもんだ。試してみるとすぐにお湯が沸くし、鍋と違って吹きこぼれなくて片付けもラク。流石は365日毎日素麺を食べている方のやり方! これぞレシピ本を手に取る醍醐味! と、感動する。

このフライパン茹でを導入してから、素麺の出番が格段に増えた我が家。冷凍ご飯をチンするみたいな手軽さで素麺が食卓にのぼるようになり、ご飯を炊き忘れた時も「ま、素麺茹でればいっか」となり、気付いたことがある。素麺は「白いごはん」だ。

それを如実に感じたのが8月13日に紹介されている「ぎょうざそうめん」。茹でた素麺に青ねぎ入りのめんつゆ、そこに焼き餃子がドドン! と添えられた一品である。餃子には白米でしょ~と思いながらも試したところ、悪くない。というか、熱々の餃子がめんつゆに浸すことで程よく冷めて食べやすくなり、素麺と共にちゅるっとイケてかなり良い。

これまで夏場は汗をかきかき餃子を食べていたが、白いごはんを素麺にするだけで涼やかに優雅に食事を楽しめる。小学生の娘は猫舌なので「今度からこっちがいい」そうだ。餃子はちょっと勇気がいるかも……という人は「コロッケそうめん(コロッケそばがお好きなら是非)」や「たこ焼きそうめん(明石焼きみたいで美味)」から試してほしい。夏は白いごはんの代わりに素麺、おすすめです。

素麺より、さらに調理がラクなのに……?

素麺とくれば、次はうどんだ。2冊目に選んだのは、満留邦子さんの『今日のうどん』。レシピ65品の中に、ぶっかけ、つけ、かけ、煮込みと温冷のうどんが満遍なく紹介されているのと、ご当地うどんが充実しているのがいい。しかも、基本的には冷凍めん+市販のめんつゆを使うことを想定していながらも、手打ちうどんと手作りめんつゆも紹介されているので、やる気さえあれば本格的なうどんにも挑戦できる、至れり尽くせりの1冊だ。

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とはいえ今はクオリティの高い冷凍うどんがスーパーで買えるので、手作りすることはないかなぁ(暑いし)と思いながらレシピを眺めていると、1品ずつがやたらとおいしそうでじわじわよだれが出てくる。写真のシズル感なのか、材料の組み合わせなのか。ページをめくりながら、その正体は1品ずつに付いている2~3行の説明文かしらと思い至った。

例えば「鶏しそ天のぶっかけうどん」には「ぶっかけはつゆが少ないから、揚げたてサクサクが存分に味わえます」とある。「揚げたての鶏天が絶品」ではなく、つゆが少ないからサクサクと理由が添えてあるので、なるほどぉ~! という納得感と共に、作りたい気持ちがむくむく沸いてくる。出来合いの天ぷらで済ませようとしていたのに、つい天ぷら粉を買ってしまった。

生まれて初めて自分で揚げた天ぷらは本に書いてある通りサクサクで、つゆが少ないので最後までうどんと天ぷらのマリアージュを楽しめる。毎日違うものを食べることをポリシーにしているはずなのに、2日連続で鶏しそ天のぶっかけうどんを食べてしまった。なんならその週末には、さらなるおいしさを求めて、粉をふみふみして自分でうどんを打った。気付けば「冷凍うどんでいいや(暑いし)」から、随分と遠いところへ来ている。暑い? 大丈夫、クーラーがあるじゃない。夏の室内レジャーとしてのうどん、大いにありです。

レシピが要らなさそうな食べ物こそ!

素麺もうどんも、食べ方に迷う人はいないだろう。つゆにつけて、ツルッとすすれば大体うまい。でもだからこそ、レシピ本があると輝きが増す。

アレンジの幅を知れるのはもちろんだが、著者の「私はこの食べ物が好きなんです!」というパワーに触れて、自分までその食べ物が好きになる。あんなに暑い暑いと思っていたのに、今では「ちょっと汗かくぐらいが、ご飯もおいしいよね」になっている。見知ったメニューだからこその発見がある2冊、夏のお供にいかがでしょう。

文/炭田 友望

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