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見過ごされがちな子どもの遊び場問題「プレイカーで子どもたちが豊かに成長できる場をつくりたい」【能登のいま/第12回】

ライターの山本洋子です。7月20日、CORECOLORメンバー19人は、それぞれの目的を持ち能登に向かいました。私の目的は「輪島ツアー」に参加し、現地で暮らす人やボランティア活動に参加している人たちの話を聞くこと。『能登のいま』執筆者の二角貴博さんが、車で輪島を巡るツアーを企画してくれて、私を含めたライター5人が参加することになったのです。当日は能登空港で合流し、二角さんの運転でツアーに出発しました。

今回私が話を聞いたのは、民間ボランティア団体「のと復耕ラボ」に滞在中の川合福太郎(トップ写真の左)さん。川合さんは東京での学童保育運営の経験を生かし、子どもの居場所づくりに取り組んでいます。被災地の子どもたちの現状と遊び場不足の問題とは。(執筆/山本 洋子)

子どもと関わるプロとして、放課後の見守り活動に加わった

7月20日、能登空港に降り立った私たちライター5人は、輪島市在住の二角さんの車に乗り込み輪島ツアーに出発した。最初の訪問地は、三井町を中心に復興活動をおこなう民間団体「のと復耕ラボ」。拠点にしている茅葺き屋根の古民家には、敷地内の木材を片づけている方や、支援者向けに施術をおこなっている整体師さんなどがいた。それぞれの活動を見学しながら「こういう参加の仕方もあるんだ」と、ボランティアにはさまざまな形があることを知った。

「のと復耕ラボ」の入り口。もともとは「里山まるごとホテル」という宿泊施設だった。屋外には、短期ボランティアの宿泊場所としてテントを常設している。

その中でとりわけ気になったのが、テントの並ぶ屋外スペースで軽トラックをいじる男性だ。荷台のドアを開け放ち、何やら作業を始めようとしている。何をするのかと聞けば、男性は「これから子どもの遊び場をつくる」という。答えてくれたのは川合福太郎さん。子どもの成長を支援するNPO法人Chance For All(以下CFA)の職員で、普段は東京都足立区の学童保育「CFAKids」の運営に携わっている。学校が夏休みとなる約1カ月半の間、子どもの居場所づくりのため、のと復耕ラボに滞在するそうだ。

荷台に芝生マットを敷いた軽トラック。もともとは冷凍車として使われていたものだ。

実は川合さんは「4月中旬から5月中旬までの1カ月間も、能登に滞在していた」と話す。のと復興ラボで子どもの見守りボランティアをしていたメンバーと一緒に活動をしていたのだ。
もともと子どもの見守りは、のと復耕ラボが震災後におこなっていたボランティア活動のひとつだ。この取り組みは、地震の影響が教育機関に及んだのがきっかけで始まった。

三井町の子どもたちが通っていた三井小学校は、地震で校舎が損傷。輪島市内で授業再開の見通しが立たない小学校はほかに5つあり、合計6校の児童たちは輪島市の中心部にある輪島中学校に通い授業を受けることになった。三井町からはスクールバスで20分ほどかかる。学童施設も輪島中学校の周辺エリアに移った影響で、そこまで迎えに行くのが難しいと訴える保護者が出てきた。子どもや保護者から「今まで通り三井町の仲間と遊びたい」「地域で子育てをしたい」との要望が多く寄せられるようになり、のと復耕ラボで放課後の見守り活動を始めることになったのだ。

「僕が来た頃は、のと復耕ラボ代表の山本亮さん(トップ写真の右)を筆頭に、中心メンバーが日替わりで子どもたちのお世話をしている状態でした。一緒に過ごす大人が毎日変わるため、子どもたちもなかなか落ち着いて過ごせません。そこで東京の学童保育でたくさんの小学生と向き合ってきた僕が、みんなを助けたい一心で長期支援に入ることになったんです」と振り返る。
川合さんは、CFAから「右腕人材」として、のと復興ラボに派遣された。「右腕人材」とは、NPO法人ETIC.が運営する「右腕派遣プログラム」のこと。復興に取り組む地元のリーダーのもとに、事業推進を支える若き”右腕”を送り込んでいる。

川合さんは1カ月の間に、子どもたちが思いっきり遊べる環境の整備に精力を注いだ。たとえばインスタントハウスにペンキを塗るイベントを開催したり、ゴールデンウイークに子ども向けの祭りに出かけたり、バーベキューをしたりと、たくさんの遊びを企画した。

子どもたちがペンキを塗ったインスタントハウス。子どもならではの自由な発想が楽しい。

同時に力を入れたのが、子どもたちの声に耳を傾けることだ。見守り活動をする中で、子どもたちは自分の好きな物事に対する情熱を持ち続けているのがわかったという。その一方で、地震の影響で自分のやりたいことができない理不尽な現実がある。

「自分のやりたいことができない状況がずっと続くと、『これをやってみたい!』と思ってもチャレンジする前に諦めるようになってしまう。実際、日常に楽しみを見出せず、何に対してもやる気が起きなくなってしまった子もいるんですよ。だから子どもたちと、とことん向き合うよう心がけていました」

そうした川合さんの思いは周囲の人にも伝わる。あっという間に地域に溶け込み、「福ちゃん」と呼ばれて慕われるようになった。

移動式の遊び場「プレイカー」で失われた遊びを取り戻す

今回は学校の夏休みに合わせての滞在となる。すでに三井町では学童保育が再開しているため、のと復耕ラボでの放課後の見守り活動は休止中だ。そこで、平時も被災時も子どもたちに遊び場を届けるCFAのメンバーとして再び能登入りした。「この1カ月半は能登の子どもたちの居場所や遊び場づくりにガッツリ取り組みます」と川合さん。

その象徴となるのが、プレイカーだという。プレイカーとはたくさんの遊び道具を載せて移動し、公園や空き地、駐車場など、どんな場所でも遊び場に変える自動車のことだ。私たちは川合さんが軽トラックの荷台で作業に取りかかろうとしている時に声をかけたが、それはちょうどプレイカーづくりを始めようとしていたタイミングだったのだ。

「外で遊ぶ機会のない子どもたちのために、各所を回る移動式の遊び場をつくるんです。これから荷台の内側を飾りつけ、子どもたちが中に入って遊べる空間をつくります。遊び道具もたくさん積み込みます。スーパーや100均などで売っている既存の遊び道具ではなく、木材やスポンジ、割り箸といったシンプルな素材です。自分たちで遊びをつくり出す楽しさを味わえる遊び場にしたくて」

この話を聞いてから約2週間後、自宅のある千葉県に戻ってから、あの時のプレイカーはどうなったのかと川合さんに聞いてみた。すると「すでに遊び場として活躍中」と教えてくれた。最近おこなった遊びは、流しそうめん。自分たちでカスタマイズできる竹の流しそうめんセットを準備したら、子どもたちが大盛り上がりしたという。

プレイカーと流しそうめんセット。手前にある箱の中には木製のこまも見える。

水を流す前にビー玉を転がして紙コップのタワーを倒したり、竹を全部つなげて長い道をつくったりして、本来の流しそうめん以外の遊びを生み出していたそうだ。「同じ道具を使っていても、その日によって全然違うものになる」と、子どもたちのアイデアで遊びが広がっていく様子を川合さんは嬉しそうに話す。

能登の子どもたちと石川県の大学生を結ぶ仕組みづくりを目指す

今後は能登でどのような活動をしようと考えているのかと質問したところ、川合さんは「活動範囲を広げていきたい」と話してくれた。今は学童保育が再開し、避難先から仮設住宅に戻る家庭も徐々に増えてきた。少しずつ日常を取り戻しつつある今だからこそ、プレイカーで遊び場をたくさんつくることが重要だと考えているという。

「遊び場にしていた公園に仮設住宅ができて、あまり外に行かなくなった子が多いと聞いています。使える公園が残っていても、覗いてみると誰もいません。子どもたちが遊ぶための場所があるのに、自由に過ごしていいんだとなかなか思えないのでしょうね。だからプレイカーで珠洲市や門前町、町野町のほうにも出向き、子どもたちが夏休みの楽しい思い出をつくれるような遊び場を各所で展開したいんです」

カラフルにペイントされたプレイカー。流しそうめんの時に使った竹はその後も遊び道具として大活躍している。

また「能登の子どもたちが秋以降も豊かに過ごせる環境を整えたい」と川合さんは語る。能登では高校を卒業すると、進学や仕事のために外に出る選択をする人が多い。地域から20代の若者世代がすっぽり抜け落ちた状態になってしまうのだそうだ。

「5年後10年後の自分を重ねられるロールモデルが町にいないのは、子どもたちにとって大きな損失だと考えています。僕がやりたいのは、石川県にいる大学生が能登に定期的に入る仕組みを構築すること。子どもたちがどの地域にいても、大学生と思いっきり遊べる環境をセットで整えたいです」

プレイカーとともに。川合さんの周りにはいつも子どもたちがいる。

大学生にとっても、違う土地の人や文化に触れて学ぶことはたくさんあるはず。「どうやって子どもたちの居場所をつくっていくのか。自分たちで考えながら活動できたら、きっと面白いですよね。この夏は、そのための仕組みづくりをやっていきたい」と川合さんは意気込みを語る。

市街地には多くのボランティア団体が入るが、小さな集落である三井町には行政の支援だけではこぼれ落ちてしまう層があるという。子どもの遊び場不足の問題も、そのひとつだ。手づくりのプレイカーにたくさんの遊び道具を載せて、あちこち飛び回る。そんな川合さんの姿は、楽しさや元気を届けてくれるヒーローとして子どもたちの記憶に残り続けるだろう。

文/山本 洋子

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