検索
SHARE
ちゃんめい

「運命を感じざるをえないマンガ」『星旅少年』【連載・あちらのお客さまからマンガです/第17回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、今一番読んでほしい! と激推しするマンガをお届け。今回は、タイトル通り「運命を感じざるをえない!」と思ってやまない『星旅少年』について語ります。

なんだか運命を感じる……。例えば遭遇率が高い人、自分がこれまでの人生で影響を受けたコンテンツが全く同じ人。とにかく不思議なご縁を感じた瞬間「運命だ!」なんて私は勝手に思ってしまうタイプなのですが、人だけじゃなくマンガにもそう思う瞬間があります。

出会いは2022年12月。マンガ好きたちが毎年楽しみにしている年末の風物詩、宝島社『このマンガがすごい!2023』を読んだときのこと。正直、ランクインする作品はオタクゆえに大体読んだことがあったり、読んだことはなくともタイトルやあらすじはなんとなく知っているというパターンが多いのですが、この年は嬉しい「はじめまして」がありました。

それは、宝島社『このマンガがすごい!2023』オンナ編第5位に輝いた坂月さかな先生の『星旅少年』。「うあ〜! 本屋さんで気になっていたのにそういえば見逃していた〜〜!」なんて心のなかで叫びつつ(こういうのが「このマン!」読んでいて楽しい瞬間だよね)そのページを見つめていたら……。「ん? パイコミックス?」と、聞きなれない名前が目に留まりました。

調べてみると、芸術書の出版社が2020年に立ち上げたばかりの新興マンガレーベルの作品とのことで。レッドオーシャン化しているマンガ事業に参入するってすごいなぁなんて思いながら『星旅少年』を読んでいたら、ちょうどその1週間後くらいにとある媒体さんで作者・坂月さかな先生への取材記事を担当させていただくことになったんです。

静かな夜を渡り歩く、とある少年の旅の記録

その前に『星旅少年』という作品について語らせてください。物語の舞台は「トビアスの木」という不思議な毒によって、人々が“覚めない眠り”につき始めたとある宇宙。住民のほとんどが眠ってしまった星は「まどろみの星」と呼ばれています。

主人公は、各星に残る文化を記憶・保存する任務を背負った星旅人303。彼は様々な星を訪れては、まだ眠りについていない住民と交流したり、その星特有のユニークな文化や建築物に触れたり……。『星旅少年』とは、そんなひとりで静かな夜を渡り歩く303の旅の記録を描いた作品です。

柔らかな筆致でゆっくりと紡がれていく303の物語は、まるで不思議な世界と現実の狭間を旅するよう。また、モノクロではなく、白と“濃紺”で描かれているから、読み進めていくたびにまるで作中の深い夜のシーンと浸透していくような、とても優しくてまどろむような読書体験が味わえます。

あと、作中に登場するアイテムが、なんかこう心をくすぐる点も好きポイントです。例えば、303が訪れた星々で出会うフレーバータバコのような「シガリス」、とても香り高そうな「フリカのお茶」、ネーミングからして気になりすぎる「TAMAGOのぐちゃぐちゃ焼き」など。絶妙にありそうで存在しない、不思議で緻密な設定のアイテムたちがもうたまらない……! このアイテムたちのおかげで『星旅少年』という世界がより身近に感じられると言いますか、確かな感触を持って迫ってくる感覚があるんです。(Xでファンアートを検索して見るのも好きです)

私にとっての “夜の色” が変わった、坂月先生への取材

取材当日。今思えば興奮しすぎて超絶早口だった私の問いかけに対し、とてもやさしく、まっすぐに答えてくださった坂月先生。

なかでも夜が好きだというお話がとても印象的でした。夜に1人で窓の外を眺めていると、遠くの方で家の明かりがパッと灯った瞬間、そこに誰か人がいるのだとわかる。どんな人がいるのかまでは分からないし、その人と手を振って話をすることはないけれど、そこに人がいるのはわかる……。そういう夜の距離感が好きなのだと。

坂月先生が “夜” に抱く想いは、『星旅少年』という物語そのものだなと感じたし。これまではただただ寂しいと思っていた夜の時間が。いや、寂しいのは変わらないんだけど、夜って真っ暗だな……ではなく、真っ暗なだけじゃない色があるなと。私のなかの “夜の色” が変わった瞬間でした。

作品と出会った直後に作者様に取材をさせていただくという幸運が舞い込んだこと。自分のなかの夜の価値観が覆されたこと。これらは、当時の私にとっては「運命を感じざるをえない!」という出来事で……。それ以降、勝手に運命を感じるマンガリストにそっと入れて、既刊を大切に読み返しては、最新刊を待ち望むようになりました。

やっぱり「運命を感じざるをえない!」

そうこうしているうちに時は2024年1月。今年やりたいことはなんだろう? と年始のお休みにマンガ棚を眺めていたら、勝手に運命を感じるマンガリストに並んでいる『星旅少年』が目に留まりました。

「ん? パイコミックス?」
「レッドオーシャン化しているマンガ事業に参入するってすごいなぁ」

そうだ、あの時の私のはてなを迎えにいってみよう。なぜパイ コミックスを立ち上げたのか知りたい、『星旅少年』を読者に届けるために奮闘している編集部の裏側が知りたい……。

完全なる私の好奇心に本メディア「コレカラ」の編集長さとゆみさんが興味を持ってくれて、パイコミックス(パイ インターナショナル)さんに企画書をお送りしたら快く取材をOKしてくださって……。そんなインタビュー記事が近日「コレカラ」にて公開されます。

今年で4年目を迎えるパイコミックスの編集者・斉藤香さんにこれまでの歩みを振り返っていただきながら、芸術書の出版社がマンガレーベルを立ち上げた理由と展望をお伺いしました

このインタビュー記事は、私のなかでは2022年年末の出会いからの集大成のような感じがしていて、その上でやっぱり今こう思うのです。

運命を感じざるをえない! と。

文/ちゃんめい

【この記事もおすすめ】

writer